今やスマホひとつで全国のラジオ放送が聴ける時代ですが、僕が中高生だった1970年代、少年少女の耳と心をつかんだ電化製品といえば、なんといっても「トランジスタラジオ」、そして70年代半ばに一世を風靡した「ラジカセ」でした。
当時の僕は、受験勉強の合間に、机の横に置いたラジカセのダイヤルをそっと回しながら、深夜放送に耳を傾けていました。
深夜放送の魔力
「オールナイトニッポン」「セイヤング」「パックインミュージック」など、あの頃の深夜放送は、まさに若者の居場所。
笑いあり、涙あり、時には人生相談まで。
ラジオの向こうのパーソナリティが、まるで友達のように語りかけてくれる感覚がたまらなかったのです。
勉強しながら聴いているはずが、いつの間にかノートは開いたまま、番組に夢中になっていた…なんてことも、よくありました。
BCLブームと世界の声
70年代には「BCL(Broadcasting Listening)」ブームが巻き起こりました。短波放送で海外局を受信し、ベリカード(受信証明書)を集めるのが流行。
SONYの「スカイセンサー」、ナショナルの「クーガ」と、各社が競って「BCLラジオ」と呼ばれる高性能受信機を投入してきました。
スカイセンサーは、ソニーらしい洗練されたフォルムと独特な近未来感。
一方、クーガは、360度回るジャイロアンテナや丸いダイヤルスケールといったギミックで、理科系少年の心をくすぐる“サファリ感”がありました。
当時のラジオ好き男子は、まるでプロ野球のファンチームのように、スカイセンサー派かクーガ派かに分かれていたのです。
でも、そんな中で僕が選んだのは、なぜか「東芝 TR-X」。
クラスで誰も知らないマイナー機でしたが、なぜか妙に惹かれて、毎晩の相棒になっていました。
「ラジオ・オーストラリア」のワライカワセミの声や、「BBC日本語放送」のビッグベンの鐘を、ノイズの中に探し出す時間——それが、まさに僕の“世界との接点”だったのです。
ラジカセ時代、到来
中学2年になると、時代は“ラジカセブーム”へ。
音楽も録音もできるこのマシンに、少年たちは一気に夢中に。
ギター少年は弾き語りを録音、音楽好きはFM放送を“エアチェック”。
情報誌も充実していて、小学館の『FMレコパル』、音楽之友社の『FM fan』、共同通信社の『FM STATION』は、三大FM雑誌として一時代を築きました。
埼玉北部の実家では、FM東京とNHK FMが主な聴取先。中でも「NHK前橋局のTPリクエストアワー」は、僕にとっての“音楽の扉”でした。
人気ラジカセたちと、僕のMAC
当時の人気モデルは以下の通り:
僕はというと、父親のMACをちゃっかり自分専用にして愛用。
お気に入りの番組を録音しては、消して、また録音して。一本のカセットテープで何度も音を重ねていく——そんな繰り返しが、楽しかったです。
ラジオから始まった何か
インターネット登場の20年以上前、ラジオはただの音声メディアではありませんでした。
知らない国の文化に触れ、人生の指針を見つけ、声だけの世界に想像を膨らませる。
あの頃の深夜の時間は、僕の「感性の原点」だったように思います。