クルマなんて、走ればいい。
今の僕は、だいたいそんなふうに思っています。古いフォルクスワーゲンに18年も乗っているのも、積極的に買い替える理由がないからです。
ただ、近年の猛暑ではエアコンが効かない。
「走ればいい」と言っておきながら、夏になるともう少し条件を足したくなります。
そんな僕も、20代から30代にかけてはハチロクやスカGを乗り継いでいました。目的地に着くことだけでなく、そこまで運転する時間そのものが楽しかった頃です。
当時、何度も読み返した漫画があります。『GT roman』。
今でもこの漫画を思い出すと、登場するクルマの姿が浮かびます。そして、そのクルマを好んで乗っていた、少々面倒くさくて愛すべき人たちのことも。
名車への想い「GT roman」
GT roman』の舞台は、沼津にあるカフェ「roman」。元「族」のリーダーというマスターのもとに、筋金入りのクルマ好きたちが集まってきます。
古いクルマに惚れ込み、手をかけ、意地を張る。傍から見れば「そこまでしなくても」と思うようなことに、本人たちはいたって真剣です。
その姿がおかしくて、格好いい。
初代スカイラインGT-Rと、新しい世代のスカイラインGTS-Rが峠で勝負する話もあります。技術の進歩を考えれば、新しいほうが有利なはず。でも、それだけでは片づかないところに、この漫画の面白さがありました。
クルマの性能に、乗り手の腕や性格や意地が混ざってくる。
読んでいるうちに、こちらまで「古いからって、侮るなよ」という気持ちになってしまうのです。
登場する名車は数あれど、僕が特に惹かれたのは、次の3台でした。
初代スカイラインGTR ハードトップ

カフェ「roman」のマスターが乗る、初代スカイラインGT-R。いわゆるハコスカのハードトップです。
このクルマについて、僕が妙に覚えているのは、夏に水温が上がってしまうのでガレージで休ませている、ということ。
クルマなのに、乗らずにいたわる。
今の僕なら「必要なときに走ってくれないと困る」と思いそうですが、マスターがやると、それが格好よく見える。惚れた相手の苦手な季節くらい、承知しているのでしょう。
うちのワーゲンも夏は苦手ですが、こちらは休ませてもらえません。持ち主ともども、暑さに耐えています。
ハコスカにはレースで活躍した歴史もありますが、僕が見惚れてしまうのは、その形です。
特にハードトップの、後ろへ流れていくルーフライン。
車体には角張った力強さがあるのに、屋根から後ろにかけては、すっときれいに線が抜けていく。勇ましいだけではない、品のよさを感じます。
当時の日産車では、フェアレディZの後ろ姿も好きでした。どうやら僕は、クルマの屋根がどんなふうに終わるのかに弱いらしい。
速さの話をしていたはずなのに、結局、線の一本に惚れているのです。
ロータス・ヨーロッパ

ロータス・ヨーロッパは、一度見たら忘れにくいクルマです。
低い。とにかく低い。
漫画には、サイドウインドウからガードレールしか見えない、という話が出てきます。本当かよ、と思う。でも、あの姿を見ると、ありそうだなとも思う。
景色のいい道を走っているのに、横を向けばずっとガードレール。助手席に乗る人には、事前の説明が必要かもしれません。
それでも惹かれるのは、あの独特の形に迷いが感じられないからです。
低く構えた車体と、ひと癖ある後ろ姿。万人受けを狙って少し丸めました、というようなところがない。好みは分かれるでしょうが、好きになった人には代わりが見つからない形だと思います。
僕には、あれだけ尖っていながら、どこか静かな英国紳士のようにも見える。
ただし、付き合いやすい紳士かどうかは別の話です。
所有して日常的に乗るとなれば、きっと覚悟がいる。それでも一度は、あの低い場所から道路を見てみたい。
ガードレールしか見えない、という文句を、自分でも言ってみたいのです。
アルファロメオ・ジュリエッタ

アルファロメオ・ジュリエッタ。
このクルマは、名前を口にするところから、もう楽しい。
ハコスカのような凄みとも、ヨーロッパのような極端さとも違う。僕が惹かれたのは、小ぶりな車体に収まった、軽やかで上品な佇まいでした。
シンプルなのに、素っ気なくない。かわいらしさがあるのに、それだけでは終わらない。
フロントにあるおなじみの盾形グリルも、この小さなクルマによく似合っています。顔つきを眺めているだけで、なるほどアルファロメオだな、と思わせるものがある。
僕はこういう形を見ると、当時の日本車も思い出します。どこか親しみがあるのに、同じではない。その少しの違いを、いつまでも眺めていたくなります。
漫画を読んでいると、この姿が道の上で動くところを見たくなる。エンジンの音を聞きたくなる。
紙に描かれたクルマなのに、こちらにそんな欲が湧いてくる。『GT roman』は、その気にさせるのがうまい漫画でした。
あの頃の名車 まとめ
こうして3台を並べてみると、形も性格もずいぶん違います。
それなのに、どれも忘れられない。
きっと僕は、クルマそのものと一緒に、「自分はこれが好きだ」と決めて付き合っている人たちにも惹かれていたのでしょう。
もっと新しくて、便利で、手のかからないクルマはある。それでも、ガレージにいる一台を選ぶ。弱点まで知ったうえで、また乗り込む。
『GT roman』には、そんな人たちが集まっていました。喫茶店で交わされるクルマの話を、僕も隣の席で聞いていたかったのだと思います。
さて、僕のワーゲンは18年目になりました。
走ればいい、と言いながら、ずいぶん長い付き合いです。買い替える理由がないのか、それとも、乗り続けたい理由をいちいち言葉にしていないだけなのか。
夏に効かないエアコンのことまで書いていると、少し分からなくなってきます。
次回は小説の中のクルマについて。もう少しだけ、昔好きだったクルマの話にお付き合いください。
コメント